しんち福祉会

倫理要綱

しんち福祉会倫理綱領

はじめに

 私たちは、今、この時を生きています。そして、「この時」は、だれにとっても、たった一度きりの人生であり、しかも一人ひとり、個性のある大切な命です。
 私たちの仕事は、かけがえのない、ただ一つの命を守り、育んでいくために必要な支援、しくみを創り福祉が普遍化されることをめざし、さまざまな障害のため社会的に弱い立場にあるどんな人をも支えていけるような社会のしくみに変えていくことです。しかし、ともするとわたしたち福祉に従事する職員が、その現場において、知らず知らずに権利侵害を犯し、又は一般の生活の中よりも権利侵害の場面が多いことは事実です。このことを念頭に、利用者の人権・権利を明確にした上で、しんち福祉会職員の自己変革の指針として「倫理綱領」を制定し、遵守いたします。
 だれもが、住みなれた地域社会の中で、自立と社会参加が保障され、生きていくことは当然の権利であり、私たちの心からの願いでもあります。人がどこに住んでいようと、普通に暮らしていける社会、すべての人にとって生活しやすい街であるためには、一人ひとりの特性に対応した支援をすることが基本であり、私たちの責務であると確信しております。
 「命を守り、人として人を支える。」この私たちの仕事は、私たちの大きな誇りであると、ここに宣言いたします。

 

 

 第1条 個人の尊厳を尊重される権利

 私たちしんち福祉会職員は、全ての人々の基本的人権を積極的に擁護し、利用者一人ひとりをかけがえのない大切な存在として尊重します。

○ ノーマライゼーション理念の普及にもかかわらず、障害をもった人たちが社会の中で共に暮らすのは、人々の善意によるという意識を払拭しきれていません。「権利」としての完全参加と平等に対する認識が不十分です。
○ 施設の機能が見直される中で、閉鎖性は改善されてきていますが、施設利用者(在宅の人も含めて)の権利の実態は、外側から見えにくい部分を含んでいます。評価項目を明確にしたサービス評価の確立が望まれ、第三者評価の導入とともに、早急に対応していかなければなりません。
○ 人は、誰もが生まれながらに、人間としての尊厳を尊重される権利を有しています。どんなに障害が重くとも、その障害の原因、特質及び程度にかかわらず、一人の生活者として、可能な限り地域の中で生活し続けられるべきです。ともに社会を構成する一員として互いに尊重し、支え合う社会システムづくりを目指していきます。

〈行動規範〉
・ 名前の呼び方については、敬称を基本としつつ、これまでの生活に応じたふさわしい呼び方をしていきます。
・ いかなる理由があっても、命令的、叱責的、権威的、否定的言動等をとることなく、価値観や生き方、好みが、一人ひとり異なることを前提に支援していきます。
・ 障害や、ハンディゆえに、「できない」という捉え方ではなく、「今できていること」、「これまでしてきたこと」、「していきたいこと」に着目し、それが継続、伸展するためにはどのような援助方法があるかという視点で、可能性を追求していきます。

 

 第2条 生活者としての権利

 私たちしんち福祉会職員は、利用者の生活のあり方や仕組みが、これまで慣れ親しんできた地域社会にあることを基本とし、適切な福祉サービスが、利用者本人の意向に沿って行なわれることを保障します。

○ 施設での生活は、生まれ育った地域社会で育んできた生活様式とは相容れないものがあることは認めざるをえません。これは、支援・援助の基本が地域生活をモデルとしているのではなく、暗黙のうちに施設内生活を想定していたからです。これでは、いつまでたっても、「家へ帰りたい」という、利用者の願いは実現できません。
○ 障害を持つ人が、必要とする福祉サービスを利用しながら、地域社会の中で、自ら望む生活のあり方や人生設計を主体的に選択していくことができるよう、自己決定に向けての力や、「社会生活力」や「地域で生きる力」を獲得するための社会的自立を支援する仕組み(プログラム)も必要となります。

〈行動規範〉
・ 「地域で暮らす」ということを、福祉の基本理念とし、地域生活が可能な人たちを、施設に入所させない取り組みと、施設利用者を出身地域での生活に戻していく努力をします。
・ 豊かな生活を営めるように、環境と条件を整え、地域生活への積極的な参加と交流を図っていきます。
・ 一人ひとりの生活歴をよく知り、できる限りこれまでの生活習慣を尊重し、その人らしい生活が送れるよう支援します。
・ 利用者の生活環境、生活条件が、同年齢の人の通常の生活に可能な限り近づくよう努力します。


 第3条 自己決定権の尊重、インフォームド・コンセント

 私たちしんち福祉会職員は、利用者が、あらゆる生活の領域で自らの意思によって選択し、決定する権利を保障します。自己選択・決定にあたっては、十分な説明や同意を得ることに配慮し、また、不当・過度の干渉は行なわないことを保障します。

○ 自己決定とは、自分の生活に影響を及ぼす事柄について、本人自身が主体的に意思決定することを意味し、施設や職員が決めたことに追認、同意することとは質的に異なります。
○ 自己決定については、ともすると悲観的な考え方に陥りやすいものです。不毛な理念とならないよう、自己決定権と自己決定能力は分けて考えるべきです。自己決定能力は一人ひとり違いますが、自己決定権は、いかなる人に対しても固有の権利として等しく存在する、基本的人権の一つです。
○ 現実には自己決定権を行使する能力が、多少とも制限されていることは事実であり、そこに権利の代行者、または権利行使の援助者が必要になります。それは、法的に規定された親権者である場合もあれば、施設職員であったりします。しかし、これらの人々は、あくまで本人に属する権利の、一時的な代行者、援助者にすぎません。

〈行動規範〉
・ 利用者が、入所する際には、施設の生活について十分に説明し、本人の同意を得てから手続きをとります。
・ 説明形態も、利用者が十分理解できるように、その方にあった説明方法を用い、容易に選択、決定できる工夫をします。
・ 施設内の居室、グループなどの編成、行事や祭事への参加にあたっては、できるだけ本人の意向を尊重します。
・ 言語による意思表示が難しい人に対しては、言葉ばかりでなく、全身で表現し、表情、行動で訴えることをしっかり受け止め、その意思を確認しながら援助していきます。

 

 第4条 プライバシーの尊重

 私たちしんち福祉会職員は、利用者の生活におけるプライバシーを守り、また、個人の情報が承諾なしに勝手に使用されないことを保障します。

○ プライバシーの尊重ということは、利用者主体の福祉サービスの実現のための前提条件であると同時に、必須条件です。もし、利用者が主張したことが、本人の了解なく、他の人の耳に入るようであれば、気軽に話そうという雰囲気はなかなか作れません。また、本人のことについて話し合う場合は、必ず「この話を職員みんなで話し合っていいですか?」と確認する必要があります。そして、話し合ったことは、その後どのような結論に達したのか、本人に伝えることが原則です。
○ ここでのプライバシーは、生活、援助場面におけるプライバシーと利用者個人にかかわる情報を外部に漏らさない、守秘義務にかかるプライバシーの二つの面が考えられます。

〈行動規範〉
・ 利用者の各生活場面、援助場面において、利用者のプライバシーを尊重し、他者の視線にさらされない配慮をします。
・ 居住スペースにおいて、共有スペースと個別スペースとの区別を明確にし、プライバシーの確保に向けて、ハード、ソフトの改善に努めていきます。
・ 個室をはじめとし、プライベートにかかわるときには、利用者の承諾を得るのが原則です。
・ 郵便物の開封、私物の確認などは、利用者の承諾なしにはできません。
・ 業務上知り得た利用者に関する情報については、守秘義務があり、情報の保護のための管理を徹底します。

 

 第5条 財産権の尊重

 私たちしんち福祉会職員は、利用者の年金、預貯金等の財産が、不当に侵害されることなく、適切に運用、管理されることを保障します。

○ 基本的に利用者の財産は、本人の意向にそって管理、運用されることが原則であり、本人の生活にふさわしい、希望する生活に支出されるべきです。
○ 一人ひとりの財産権を守れるよう、財産管理の客観性を担保した仕組みを展開していきます。

〈行動規範〉
・ 金銭などの自己管理が可能な利用者に対しては、管理、使用できる配慮を行います。
・ 自己管理のできない利用者については、本人、家族(後見人)との契約により、適正な手続き、手順、方法により、財産管理が行われるように配慮します。
・ 利用者の財産は、いかなる場合も本人の同意なしには、管理、運用はできないこと、本人の判断力に課題がある場合は法理に基づき対応していきます。

 

 第6条 知る権利の尊重

 私たちしんち福祉会職員は、利用者が必要とする情報をわかりやすく受ける権利を、利用者に理解できるように提供していくことを保障します。

○ 福祉は、自己決定を尊重した仕組みに変わっており、決定、選択に必要な情報をいかにわかりやすく、十分に提供していくかが問われます。
○ 知る権利の尊重は、個別的対応が基本となりますが、一方、サービスを提供する側の社会的債務として、積極的に情報の開示を行わなければ、片手落ちになります。情報を開示していくことが、知る権利の尊重につながっていきます。

〈行動規範〉
・ 利用者にとって有益(必要)と思われる情報は、伝えることを原則とします。
・ 情報は、単に伝えるだけでなく、利用者が理解できるような方法を用い伝えていきます。理解力が低下した方、文字や抽象的な表現を理解することが困難な方に対しては、本人が理解できるようコミュニケーション、伝達手段について工夫していきます。

 

 第7条 体罰・暴力・虐待の絶対禁止

 私たちしんち福祉会職員は、福祉サービスの提供において、体罰・暴力・虐待の絶対禁止を保障し、人権擁護について積極的に推進していきます。

○ 体罰、虐待などの人権侵害がなぜ、あとをたたないのか。その根元は自分より弱い立場の人に対しての、援助する側の心の持ち方、価値観であると思われる。「できない」、「弱い」ということが、その人の「存在」そのものまでも否定的にとらえてしまい、このことが、かかわる職員の間違った優越感、指導者意識を助長してしまい、あたかも自分のほうが偉いと錯覚してしまうことから起こる。
○ 自らを福祉の専門家と任じ、また目指す我々は人権侵害を防ぐ立場であること、利用者の想いを代弁できる役割を担うことを忘れてはならない。
○ 人権侵害は、単に職員個人の資質のみによるだけでなく、援助にかかわるスタッフの姿勢が問われなければならない。問題が生じた場合は、その援助スタッフ間での問題解決に向けての取り組み、解決に至る経緯について報告を求めます。
○ 様々なハンディキャップをかかえている人たちが、他の町民と同等の権利を保障され、同等の生活水準を確保するために必要なサービスが、適切かつ十分に提供されているかどうか絶えず点検、評価を行い、体罰、虐待などの権利侵害に対しては、有効な救済手段を提供できる権利擁護システムを、身近な地域に創設していきます。


 第8条 専門的、かつ質の高いサービスを受ける権利

 私たちしんち福祉会職員は、利用者一人ひとりのニーズに基づいた、福祉サービスを提供することを保障します。

○ 質の高いサービスというのは、基準を満たしたサービスであることが必要ですが、これに加えて、一人ひとりの要求にこたえているサービスであることが求められています。
○ この権利を保障していくためには、最新の援助技術などの高い専門性、すぐれた人権感覚、豊な人間性が求められます。

〈行動規範〉
・ 私たちは、援助者として必要な専門性を高めていくための努力をします。
・ 障害の種別、程度別のサービスシステムから、ニーズに着目したサービス提供システムへの転換を図っていきます。
・ ニーズに着目したサービス提供システムへ転換していくためには、特化した専門性だけでは不十分です。保健、医療、福祉の連携強化が求められており、総合的なサービスの提供を目指します。

 

 第9条 ケアプラン策定に参画する権利

 私たちしんち福祉会は、利用者に係るケアプランの作成にあったては、利用者本人及び、家族の主体的な参画を基本とします。

○ これまでの福祉サービスは、既存のサービス、既存の制度が先行し、個人のニーズは、これらに合わせる形で進められることが多く、しかも、同意を得るという形での利用者参画であり、主体的参画とはほど遠いものでした。
○ 真に参画する権利を保障していくためには、利用者主体ということがプロセス全体に貫かれていなければなりません。そのためには、利用者に係るケアサービスはケアプランを基本としていきます。
○ ケアプランは、一人ひとり個別のニーズに基づき、この前提の上に、参画を進め、利用者の声をケアプランに反映させていくということを原則とします。

〈行動規範〉
・ 個別援助プランの策定内容については、誠実に実行します。ただし、見直しを余儀なくされる場合は、利用者本人、家族及びスタッフ間で十分検討し、連絡を密にしていかなければなりません。
・ 個別援助プランについて、実行できない合理的理由がある場合は、このことを第三者が加わるサービス評価、苦情解決等の人権擁護システムの中で明らかにしていきます。
・ 施設サービス評価は、一般的サービス評価だけでなく、個別援助プランに基づく評価がなされなければ利用者主体とは言えません。

 

 第10条 意見・質問・苦情を表明する権利

 私たちしんち福祉会職員は、利用者の些細な意見・質問・苦情であっても、真摯に傾聴し、具体的な解決、改善を図っていくことを保障します。

○ 現在の施設運営は、利用者との契約により成り立つものであり、お互いが対等の立場にあることを認識し、措置制度よりも意見、苦情を言いやすい環境にあるとはいえ利用者側からするとまだと考えておられるはずです。この契約制度の基本をしっかりおさえ、実践することが求められています。
○ 措置から契約へは、これまでの関係が逆転することです。福祉にかかわる職員の能力、人格が高くとも、提供できる支援、援助のメニュー、中身がお粗末であれば、選んでもらえないということです。
○ 私たちの思いを実践しても、そこには、社会的な役割や価値が問われなければなりません。そうしたことを誰が、どういう形でフィードバックさせてくれるのか。それは個人の思いや心がけではなくて、一つの仕組み、方法として持つべきです。苦情解決の仕組みは、そういう「気づき」をもたらす方法です。

〈行動規範〉
・ どのような些細な意見、質問、苦情であっても、真摯な姿勢で耳を傾けます。
・ 利用者及び家族からの意見、質問、苦情などは、必ず業務日誌などに記録し、情報として共有していきます。
・ 利用者の懇談会活動を応援していきます。
・ 意見や苦情を拾い上げる仕組みとして、苦情解決窓口を設置し、第三者委員を配置し、苦情解決には積極的にかかわっていきます。


おわりに

 この倫理綱領は、施設利用者だけでなく、様々なハンディを抱えながら生活している在宅の方々をも視野に入れ策定しています。ただ、全体としてまだまだ不完全なものであり、ご意見、ご批判を仰ぎながら、改定や整備充実を図る必要があります。
 障害を有する方々の呼称をどうするか、障害者という表現についても、ふさわしい言葉が見当たらず、ここでは、障害者、利用者という言葉を使いました。 障害をもった方の権利擁護については、地域福祉対策の脆弱さや、施設設備基準の低さなど、すぐには解決できない困難な問題がたくさんあります。しかし、その反面、こうしたまわりの人たちの、ちょっとした気遣いや、意識を変えることによって、本人や家族が楽になり、差別意識を払拭できる場合が多いのも事実であると思います。何よりも、本人のいやがることをしない、いやがる言葉を使わないという心構えが権利擁護のはじめであることを想起し、明日から新しい一歩を歩んでいきたいと思います。
 最後に、この倫理綱領が、様々な生活上の困難さを克服し、自ら望む生活や人生を実現しようと、真摯に生きている方たちへのエールとなり、障害をもつ、もたないにかかわらず、お互いの人生を尊重しながら、一人ひとりが自らの社会的役割を果たす社会を実現するための引力となっていくことを、強く期待します。